秘密の片想い
すると突然、三嶋はかしこまった口調で真面目な話をし始めた。
「それで、上野さん。窓口業務には、どのようなお客様がご来店されるのですか」
「え、あ、はい。主に希望生命をネット予約された方がご来店されるので」
別の所員が、近くに来たかららしい。
真面目なんだか、不真面目なんだか。
変わり身の早さに脱帽する。
案内はすぐ終わり、私が指摘した通り彼は別の代理店へと出向いて行った。
それからその日は、彼がタケウチ保険事務所に戻ることはなく、話す機会もなかった。
それでも、ふとした瞬間に彼を思い出しそうになり、慌てて頭から追い出した。
私は彼から逃げたじゃない。
忘れたの?
もう二度と会うつもりはなかった。
例え、会えたからといって、あの頃には戻れない。