イルカ、恋うた
『自分で買い、祈ると、願いが叶うよ』


ああ、そうか。

自分で買わなきゃ意味ないのか。


じゃあ、おばさんの“頑張れ”って?


先を読む。


『好きな人に貰えたら幸せ!その人と両想いになれるよ』


『これはジングス。好きな人に貰えた場合、付けてくれたら、両想いの意味だよ』


――これ?


「……」


俺はため息一つ、上着のポケットにしまった。


それから、すっかり落胆した美月を連れて、あの場所へ向かった。


ラッコが見たい、と言ったわりに、そこで笑顔を取り戻した。


光彩を放ち、水を弾いた尾が泡を作る。


二頭のイルカが、いつかのように、輪舞する。


「恋人同士よ」


美月は開口一番に、そう言うと、反応を待つように、こちらを見る。


「どうでもいいよ。性別だって、素人じゃ分かんない……だっけ?」


「もう!」


彼女は頬を膨らませた。


いつもなら、拗ねたり、怒られたりすると、正直悩むんだけど…


今は何だか可愛い。


「そうだよ。きっとね」と答え直した。


そして、かつての父の言葉も言った。


「歌っているんだ」


美月は、「うん」と笑顔で、イルカ達を見つめてた。


< 106 / 224 >

この作品をシェア

pagetop