イルカ、恋うた
特別捜査本部が、どこまで進んでいるのか、依然不明瞭なままだ。


所轄も、別の事件があるため、大して気にはしていないようだ。


ただ、同じ建物にいるのは気に入らないようで、廊下ですれ違うだけで、自分のデスクに戻ると、舌打ちしてた。


ある日のこと。
課長が耳打ちしてきた。


吐息ごと震えているようなので、俺は鳥肌が立った。


しかし、彼は真剣だった。


「……お前、何した?」


「は?」


「本庁の捜査一課、強行犯捜査三係の係長が、少し君とお話がしたいそうですが…」


わざとらしい敬語に、嫌な予感がした。


そのまま、課長に引っ張られ、使用されていない会議室に通された。


捜査会議室に来させず、別室を用意するほど、部外者が捜査に関わることを好まないらしい。


しかも、部屋には彼しかいない。


課長も払った。


恰幅が良いわけでもなく、といっても、細くもない。


ごく普通の中年男性だった。


歳は近そうだが、岩居さんと違い、雰囲気が威厳そのものだった。


「君が水島君だね。交番勤務時代は、ずいぶん優秀だったようだな。署長の推薦で、ここまでくる。600人の中で1人。これがどういう数字か、分かるかね?」


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