イルカ、恋うた
「……別に、何も」と答えても、当然のように聞き流された。


「何を話しているのだ?」

「……木田とは、高校時代の友人です。調べてもらえば、分かるでしょう。

伊藤弁護士とは偶々知り合いで、級友と再会したのをきっかけに、会話を少ししただけです。

彼にも尋ねられたら、いかがでしょう」


そして、多少予測していた言葉を投げかけられた。


「ライターに弁護士、どちらも刑事が親交するのは、好ましくないな。それについて、どう思う?」


「心配をおかけして申し訳ありませんが、彼はとても大切な友人です。学生時代の唯一の友です。何より、リークなど、不安に思われているような真似していません」


恐怖心を押し殺し、彼の目をしっかり見て、答えた。


「……いいだろう。余計な真似をしてみろ。交番勤務に逆戻りを覚悟しろ。いや、下手したら免職だ」


係長はそう語気を強めて言い残し、ドアノブに手をかける。


そして、出る間際に、また一言。


「佐伯検事正のお嬢様を泣かすなよ」


俺は息を飲んだ。


感情の見えない口ぶりだった。


だけど、冷徹な目をしてた。


――全てお見通し?



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