イルカ、恋うた
「警察病院での死亡要因は、全身まで広がっていた悪性の癌細胞。ワッパかけられる前から、知っていたなら……」


自分の行く末を悟った人間は、最期に悔いないよう、どうすべきか、決めるのかもしれない。


余命を知った女性が、家族と最期を過ごすことを考え、思い出作りに水族館に出かけたりする。


気にかけていた少年を殺した犯人を必死で追った男性は、あの命を尽きる瞬間、家に置いている妻を想ってたんじゃないか。


そして――


血を分けた息子を、手放してしまった男性。

死ぬ直前、息子の名前を呼んでくれたんじゃないのか。


人は悔いる時があり、なくても、遺す情がある。


もしかしたら、一時でも、人の道を外れ、無関係な人達さえ巻き添えにした罪を恥じ、最期を意識してから、悔悟の念にさいなまれたのではないか。


組織の頭は、わずかながら良心を見せたのかもしれない。


「竜介、捜査を続けていくとしたら、最後は必ず検事正にぶち当たるんじゃないか?」


真実の有無がどうであれ、か。


俺は、不安にうつむいた。


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