イルカ、恋うた
先日の水族館でのことを思い出した。


「竜介……?」


「な、何?」


「顔赤いよ」


そう言いながら、美月まで頬を染める。


どうやら、同じことを思い出したらしい。


「ねぇ、だから公園にでも行ったらぁ?俺はそこの駐車場にいるから」


やれやれと言った感じで、岩居さんは割って入る。


そして、移動の間際。


「有料駐車場代。これは領収書でないから、お前払えよ」


と、からかった。


だから、誰が連れてきたんだよ、と思いつつ。


まだ、裾を摘む手を見た。


会えて、なんだかホッとしてる。


「あのね、竜介……公園行く前に、お願いがあるの」


彼女は、照れていたかと思えば、今度は不安げな顔してた。


「うん?」


「前にイルカの絵。ファイルに入れてるって言ってたでしょう」


「うん。言ったな」


美月は下を向き、一旦黙る。


「……まだ、ある?」


それが不安だったらしい。


――からかっちゃおうかなぁ。


まるで、岩居さんのような低レベルな考えが浮かんだ。


「あれかぁ、ごめん……実は……」


顔を背けると、「え?」と美月は言った。


「実は無くしちゃって……」


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