イルカ、恋うた
“なーんちゃって、冗談”と言うつもりが……


「やあね、朝っぱらから女の子泣かせて」


「あそこ、警察の独身寮よねぇ。まさか、警官?」


――え!?


通りすがりのおばさんの声を聞いて、顔を戻して、美月を見ると、すでに顔を覆うようにして、泣いてた。


慣れないこと、するもんじゃなかった!!


「ごめん、冗談!あるから。ごめん!!つい、岩居さんのノリで。ちゃんと、保管してある。朝も見てたよ!!」


「本当?」


と、彼女は手をどけ、こちらを見る。


あの絵そんなに大事なんだ……彼女にとって……


「今、持ってくるから。絶対、動くなよ」


急いで、あのファイルを取りにいった。


三階まで、階段を駆けのぼり、そして、下りる時も走り、彼女の所に戻った時は、本当に倒れそうだった。


「り、竜介。大丈夫?……そんな、急がなくても」


座り込んだ俺の肩に、美月はそっと手を乗せる。


「だって……不安だったから……君と離れるの……」


立ち上げると、すぐに美月は抱きついてきた。


「汗、臭いかも……」と言うと、彼女は「全然」と笑ってくれた。


ふと、その表情を見て、思った。


なんだか、いつもの笑顔と違う。


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