イルカ、恋うた
桜井検事は微笑した。

それから、急に話題を変えてきた。


「佐伯検事正が意識を取り戻して本当によかった。彼は僕の目標でしてね。優秀な検事でした。早く、指導を受けたいです」


そして、何かを諭すような、あの目をした。


「伊藤弁護士は僕も存じています。そして、僕も十三年前の事件を少し調べてみました。個人的にね。でも、調べ直す必要はないと感じました。何もおかしな点はない。君達もそう思ったでしょう」


「ええ、そうですね」


俺は、これも偽証か、と腹の中で皮肉った。

ただ、確かに真実が出てきたわけじゃない。


冷静を保っていたのが、次の彼の言葉に崩れた。


「最近、美月が佐伯検事正と会う度に、泣きそうな顔をしてます。これ以上、親子のことで悲しんでほしくないですね。美月は本当に、父親想いの子で、今も夢を諦めたままじゃないですか」


「え?」


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