イルカ、恋うた
「ああ、知らない?聞いてない?
彼女はね、翻訳家や通訳士になりたかったんですよ。英会話に通ったり、大学では、英文科を専攻してました。

留学もするつもりでした。ただ、卒業してすぐ、早々と僕との婚約を、検事正は話してしまって……。


そこで、諦めちゃったらしく、その後は検事正の一人娘でありながら、フリーター。


婚約が決まれば、花嫁修業として、ご存知のように家庭に入りました。


僕は妻にしても、夢を叶えさせてあげるつもりでしたのに……留学だって、許したのにね。妻の幸せのために」


彼はそこで、腕時計を見た。


「おっと、時間です」


事務官が部屋に戻り、俺も足早にそこを出た。


自分でも敷地を出るまで、どんな顔をしているのか、全く分からなかった。


ただ、目の辺りが痙攣しているように感じていた。



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