イルカ、恋うた
――翌日


木田からの連絡を受け、彼のアパートを訪ねた。


「お前に頼まれたこと調べてみた。医療従事者ってのは、記者相手じゃあ、なかなか教えてくれないから、伊藤さんと一緒にな。お前の予想通りだったぜ」


木田は座るや否や、タバコをくわえた。


俺は、吐かれた煙を目で追った。


「そうか、じゃあやっぱり、自分の死期を悟ってたんだな」


「ああ、ヘビースモーカーで、肺の組織がボロボロ。

そこから、悪性の癌細胞が生まれちまったってとこ。食道もやられていたそうだ。

病院嫌いの頑固さが、結果的に手遅れな状態にした。ま、組の頭らしいじゃん」


「死を意識したから、仏心が出たのかな」


「逆も言えるぜ。地獄は避けたいから、最期に浄罪しようかって。牢獄行っても、神はごまかせないと思うがな」


「お前、神を信じるねか?」


失笑しながら、訊くと、彼は真顔になった。


「信じる、信じないなんて存在はないさ。いるって、ばあちゃんが言うから、信用する側に回ったのさ」


「ババアコンか。俺は信じない」


と言って、今度は俺がタバコをくわえた。


「……お前、まだ落ち込んでんのか」


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