イルカ、恋うた
「お前、変だぞ。検事に何を言われたか知らないけど、真実を掘り起こすためには、あらゆる可能性を考えなきゃ。たださ、なぜ検事をかばう?」


理由は自分でも分かってる。


いつか願った。


彼女が心から幸せに笑える時が来るように、と。


そして、今は桜井検事と、係長の声がする。


『これ以上、親子のことで悲しんでほしくないですね』


『佐伯検事正の一人娘を泣かせるなよ』


俺は木田には何も言えなかった。


ゆっくり立ち上がり、

「……俺はもう帰る」

それだけ言うと、部屋を後にした。


彼も特に止めなかった。


また思い出した、言葉。


『美月が佐伯検事正と会う度に、悲しそうな顔しています』


原因はすべて、俺にある。


泣かせたくないのに―…



――やっぱり、出会わなければよかった。



イルカは、並列に泳げないでいる。



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