イルカ、恋うた
「主人はきっと、この少年も救いたかったんじゃないか、と思ったんです。いえ、きっとそうです。

実は、私は犯人が捕まるまで、主人の死を、この子が原因ではないか、と考えたこともあります。

たとえ、そうであったとしても、そうでなかったにしても、会ってみたくなったんです」


三人で、寺の敷地内、裏手にある墓地まで、並んで歩いた。


婦人は柔和に話を続ける。


「命日は公園に欠かさず通ってましたが、先日初めて、同じ警察の、しかも若者が来てくれた。

正義感溢れる目は、主人の若い頃を思い出させてくれた。

すると、不意に考えが浮かんだんです。主人は犯人を含め、少年達も誰も恨んでないんじゃないか、って。

そしたら、主人が向かい合ってきた人達に会いたくなった」


少年の父親から教えられた、墓石の前に立つ。

今では、反抗していた母親と一緒にいる、と婦人の口を通じて知る。


三人は手を合わせた。


ただ、黙祷するだけで、頭は空。

何も伝えられなかった。


奥さんが一番、長かった。


彼女は伝えたいことが、たくさんあるんだろう。


寺の前で、婦人と別れた。


一人になりたい、と言うので、見送るだけにした。


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