イルカ、恋うた
婦人の背が消えた頃、不意に後方から声をかけられた。


「あの、アイツと知り合いなんですか?」


三十代半ばくらいの男性だった。


彼は怪訝な顔をしているが、焦っている様子もなく、平然としてる。


「アイツ?」


伊藤弁護士が珍しく、眉間に皺を刻んだ。


「いえ。先ほど、墓の前で手を合わせていたから……。

ほら、アイツ嫌われ者で、話すのは俺くらいなもんだったから。同窓会だって、会話したの俺くらいかな。

来月命日だけど、仕事で来られそうもないんで、今日参りに来たんです」


「……同窓会?」


「ええ、死ぬ三日か四日くらい前。小学校のを」


伊藤弁護士は、身分を名乗った。


それから、ある過去を調べたら、彼に行き当たった、と簡単に説明した。


それから、変わったことを口にしていなかったか、と訊いた。


さすがに、彼は動揺してた。


伊藤弁護士が、落ち着かせた。


弁護士、という面でも、安心したようだ。

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