イルカ、恋うた
「味方に対しての秘密は嫌いでね。君もこそこそ動くのをやめたまえ……」


監視。

直に聞くと、ぞくっと悪寒が走る。


まさか、検事正に直接何か訊くとでも思ったんだろうか。


彼個人じゃなくて、検察庁自体が、それを疑ってるのか。


身体が硬直するように、動かなくなった。


「どうしたんだい?昨日は気分が優れなかったようだし、運転を代わろう。美月と後部座席に座るといい」


いいえ。結構です、と断るはずが、何も言えず、彼は俺の肩をポンと叩くと、手から車のキーを奪った。


刑事さんの運転で事故はねぇ、と彼は呟いた。


俺は従い、後部座席に座った。


すると、力なく投げてた手に、彼女の手が重なった。


俺はとっさに、その手を引っ込めた。


「……竜……」


そこまで呼んで、美月は黙った。


たぶん、桜井検事を気にして。


俺はただ、窓から流れる風景を見てた。





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