イルカ、恋うた
「今ね、お兄……桜井さんと話をしているの……だから、あの……」


美月は辛そうに、唇を閉める。


「不安なんだろう?」


彼女は頷いた。


「竜介が責められるようなことあったら、私……嫌。どうしたら……」


俺は断言できた。


「美月が思っているようなことじゃない。きっと……」


娘との関係じゃない。

桜井検事が監視するという今、内容はあのことしかない。


「きっと……?」


美月は首を傾げた。


まだ、彼女に知られるわけにはいかない。


「大丈夫だって。何も悪いことしたわけじゃない。ここで待っていて」


美月を残し、彼らの待つ部屋へ戻る。


長い廊下より、長い時間歩いているような感覚が起こった。


ノックすると、桜井検事がドアを開け、ベッドで上体だけ起こした、厳格なイメージの男性と、目があった。


頭を下げると、すぐに横に立つよう指示された。


「美月は?」


「ロビーにおられます」


「そうか。桜井ももういい。下がれ」


「いや、しかし……」


「下がれ、私の言うことが聞けぬか?」


狼狽する部下に一喝する。


まだ、力ない。


だが、威厳を残し、鋭い口調だった。


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