イルカ、恋うた
「シャブ系って分かるか?
警察に麻薬専門の捜査官がいるように、検察庁にも専門が置かれている。


私は経験ないが、知人が漏らしていた。麻薬所持で送致されてくるのは、素人の中毒者が大半。


一番の要因である、暴力組織は逃げのびるばかり。中毒者は、いわば患者にさせられた被害者じゃないか、とな。


被害者ばかり捕まえても、本体をどうにかしなければ、蔓延するだけだ。


ある時、受験と恋に悩んだ中学生が、送検されてきた。

苦悩している最中に、薬を紹介され、手を出してしまった。危うく、売春までいくところだった」


検事正は、大きくため息を吐き、咳払いもした。


気を遣って、終わりにしようとも思うが、彼はまだ話したがった。


「多少、骨が折れても、特捜部検事がいい、とも言っていた。痛々しい注射針の跡よりも、肥えた政財界を見ていた方がマシなんだ。

どれだけの若者が、組織の懐を温めるだけで、犠牲になるのか。私は考えたくもなかった。娘がいると、特にな」


検事正は失笑した。


が、すぐに鋭い目つきに変え、こちらを見据えた。


「お前さんは、どこまでが本心だ?」


彼の言っている意味が分からなかった。



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