イルカ、恋うた
検事正は構わず続けた。


「正義感はどこまでのもんだ。真実とは何だ?

真実を確実に求め過ぎて、実態が把握できなる場合もあるし、解決できないままの問題も起こる。

私は悪魔を許さん。子ども達を、若者を潰す輩が一番の悪魔だ……」


そこで、急に少しだけ口調が穏やかになった。


「……伊藤は元気か?目を覚ます前は数回来てくれたようだが、会話できるようになってからは、さっぱりだ。

ライバル視してくるわりには、子どもだった美月を可愛がったよ。

家政婦は雇ったし、桜井もいたが、伊藤には叔父を見るようになついてた。

だが、法廷上では、本当に敵同士になっちまう。法廷以外では、そうはなりたくないものだ」


そして、更に優しくなる。


「私は美月が可愛い。妻を亡くしたからじゃない。

あの子は周囲を窺って、合わせるように振る舞う。

元気のない者を見つけると、ともに泣くか、激励するか……強がる面も多く、私には甘えることは少ない……」


彼は一旦間を置くと、再び元の威圧感たっぷりな態度に戻る。


「親の欲目じゃなく、美人だ。そう思うだろう?」


俺はまだ、緊張から声を失ってた。
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