イルカ、恋うた
『どうして、そこで彼が出てくるの?もう、やだ……どうして、どうして避けるの?

私は……会いたい…それだけなのに。ずっと、待ってたのに……。イルカの奇跡を…あの約束、十二年間信じてたの。

……そりゃ諦めたことあるよ……だけど、また会えたの、竜介と……!」


俺は頭を押さえるようにして、うなだれた。


時は戻らない。変わってしまう。


子どもの頃、できたことが今はできない。
大人になったら、消えてしまうものだってある。


あの時の俺は、ガキの俺は、大人特有の、社会が作りだす、壁や隔たりを知らなかった。


無知なガキが、純真な女の子と出会った。


それが奇跡なんだ。


ただ、それは大人になったら消えてしまう。

脆い夢だと思ってほしい。


俺は優秀検事でも、検事正が認めてくれるようなキャリアも持っていないんだ。


口には出せない。


だから、卑怯と分かっいながら、ただ無言を返した。


『竜介?…何か言ってよ。やだ、答えてよ……避けられるの……背向けられるの、もうやだよ』


一旦、受話器を離し、ため息を吐いた。


――君が望むような関係になれない。


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