イルカ、恋うた
覚悟を決め、それを伝えようと思った。


「美月、俺は……」


その時、ぱたん、と机の上の写真立てが倒れた。


父さんと母さんの、唯一のツーショット写真。


下敷きになったファイル――


初恋に胸を踊らせた少年が、まるで自分の中に帰ってきたような、気分になった。


『竜介……?』


「……会いたい。俺も君に会いたい」


『竜介』と呼んできた、彼女の声は明るさを取り戻していた。


「会いに行く」と言い、勢いで一方的に切った。


着替えずにいたことに感謝した。


そのまま靴を履き、下におりる。


すると、以前のように、車が前に止まってた。


自分を呼びながら、女性が胸に飛び込んできた。


「何で?」


「賭けたの。これで拒絶されたら、このまま帰ろうって。岩居さんに頼んで」


よく見ると、彼は運転席で寝てる。


おい、おっさん。
何かあったらどうすんだ。


不満はあったが、胸に頬を付ける美月は、嬉しそうに微笑む。


先輩への不満も、吹き飛ばしてしまうくらい、効果があった。


「美月、ここ目立つから、また公園でも行こう」


「うん」


岩居さんを起こし、前みたいに移動してもらった。


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