イルカ、恋うた
「私ね、海外の絵本や童話が好きで、原作を訳して、日本の子ども達に紹介する仕事したいなって。

ほかにも、映画の字幕とか、日本に来た外国の人と、コミュニケーションの間に立つ通訳さんにも、憧れて……」


それまで、楽しそうに話してたのに、急に悲しそうに、黙りこんだ。


「大学の在学中に、留学できたらな、って思ってたのに、その前にパパが時期が来たら、結婚させるって言ったの。だから、どうせ叶わないなら、もういいって諦めた」


美月は俺の胸に、顔をうずめる。


俺はその髪を撫でる。


「竜介とも、どうせ会えないって諦めようとした時期だった。あの頃のままだったら、お兄ちゃんと結婚してた。やけになって……」


「諦める必要ないよ。今からだって、頑張ればいい」


「でも、簡単に……」


「簡単に叶う夢なんてないよ。俺だって、刑事になれるなんて思ってなかった。

だけど、なった後も大変。ノンキャリはね。

岩居さんは四十過ぎてるけど、警視庁捜査一課に行きたい、って未だに言ってる。な、君も諦めるな。応援してる」


「……うん。頑張ってみる」


美月は決意した後、訊いてきた。

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