イルカ、恋うた
俺が一番に興味を惹かれたのは、裁判官の座る場所だった。


中央に身を置き、被告人と証言者の立つ証言台を、目の前で見据える。


弁護士や検事の質疑応答や争いを、上で毅然と観望する姿は、一見冤罪とは縁がなさそうだ。


人が人を裁く、間違いも起こる、とどこかで聞いた。


ならば、なぜそこに立つ勇気があるのか、一度訊いてみたいくらいだ。


神妙な面持ちで、取調室で会った男が、法廷に入る。


弁護士は初老の男性、公判検事は女性だった。


検事の「あなたは罪を認めました。間違いありませんね」という問いに、彼は否定しなかった。


所持していた凶器に至っても、購入場所まで証言、調査報告書と間違いはない。


俺はまた、野村巡査の事件を考えてしまった。


サバイバルナイフの入手方法を、伊藤弁護士によれば、御崎は公判で答えたと言う。


その後、首領の教唆も認めた。


凶器の事柄一つで、有罪は逃れられない。


その時、伊藤弁護士は愕然としただろう。


佐伯検事正の顔はどうだろう。


女検事の顔を見る。


真顔だけど、どこか満足そうだった。


とはいえ、この場合自首だから、無罪ってことはない。


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