イルカ、恋うた
木田が求める資料ではない。


伊藤弁護士が言った。


捏造したら、元は100%破棄する。

警察はもちろん、検察こそ保管することは、上層部が許すはずがない。


佐伯検事正なら、あの性格ならどうだろうか。


正義感の為に動いたとして、もしそれが、法外なことだと常に、意識し、嫌悪や良心があったとしたら…

彼なら、真実の証拠を捨てられないと思う。
あえて、自分への戒めの為に持っているのではないか、と。


それは長年のライバルであり、友人である伊藤弁護士が言うからこそ、信憑性はあった。


が、本当にあるなら、どうするんだ?


まさか、見せてください、なんて言えるわけない。


しかも、ライター、桜井検事がいる限り。


伊藤弁護士でさえ、話せるかどうかも……。

俺なんかもっと無理だ。


「はぁ……」


ため息吐いて、机に肘を付いて、頭を乗せた。


目の前の本棚の、ファイルの背表紙を見据えた。


『認めてもらえるまで、頑張る』


そう言ったけど、陰でコソコソ調べてる平刑事を、娘の恋人に許す人はいない。


しかも、望んでた婚約を破棄させてしまった原因の俺。


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