イルカ、恋うた
「お嬢さんも覚えてて、二人で話したいってそのライターが言ったのを、従ったんだ。

それで、俺は車に戻って、二人を見てた。門から離れて、警官に聞かれない位置で、何やら話し込んでた。

そのうち、お嬢さんの顔がみるみる暗くなって。しまいには、彼は詫びたのか、一礼して、さっさとどっかに行ってしまったんだ。

大丈夫だったかって、お嬢さんに話しかけたら、泣きそうだったぞ」


混乱してて、すぐには内容が想定できなかった。


木田が、美月に何かを話した。


彼が手に入れたいのは、調書。


その調書は、佐伯氏の、美月のお父さんの捏造を確定してしまうもの。


だけど、いくらなんでも、何も知らない娘に訊くだろうか?


いや、自宅にあると予想してたら、遠回しにでも尋ねてみるとか……


『みるみる暗くなって』


遠回しで?


彼女は素人だ。そんなにすぐに、“良くないこと”って判断できるのか。


友達を信じたかった。


でも、それはあっさり裏切られた。


夕方だった。


美月がいなくなったと連絡が入る。


門の前の警官は、ちゃんと迎えが来ると聞いて、送り出してしまったという。


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