イルカ、恋うた
「時間がないので、担当直入に言います。美……お嬢さんがいなくなりました」


桜井検事が、「何だと!」と立ち上がり、俺の胸ぐらを掴む。


「やめろ!桜井!!」


そして、佐伯検事正は睨みつける。


「貴様、失敗を報告しに来たのか!?」


俺は賭けた。


この人の良心と、娘に対する想いに……


「お嬢さんがいなくなったのは、恐らくあなたの過去を知ったからです」


二人の検事はハッとしたように固まった。


「俺はすぐに彼女を捜したいから戻ります。言いたかったのは、それだけです。

いつかおっしゃいましたね。自分も上は怖いと。なら、父親としての“佐伯さん”に言います。あなた、それでいいんですか?

確かに正義は矛盾する。だからこそ、悪を基から絶つことにこだわったんでしょう。

だけど、間違った手法を選んだ時点で、すでに正義も真実も歪められてるんです。野村巡査なら絶対にしない」


それを最後に、俺は部屋を飛び出した。


病院を出て、携帯の電源を入れて間もなく、岩居さんから連絡が入った。


「よかったよ。予想が当たって。独身寮の前にいた」
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