イルカ、恋うた
そうだ、こう言った。

これはきっと、検事としてではなく、佐伯氏としての言葉だったんだ。


桜井検事を払ったのも、個人的な気持ちだから。


彼女に今言ったセリフは、間違いなく事実。


「竜介」


「ん?」


「何があっても、パパのこと、大好きだから」


「うん……ああッ」


俺は先ほどの、特別室に入る前の自分の言動……


「どうしたの?」


「……まだ先のことだって、桜井検事に言っちゃったんだよ!絶対、検事正にも聞かれてるし!!」


「え、何が先なの?」


「いや、それはその……実は、君を捜す途中に、検事正のとこ行ったら、結婚の許しでももらいに来たのか、みたいなこと言われて……」


ふーん、と美月は少し笑った。


「先、っていつ?」


「さ、岩居さんが待ってる。行こう」


彼女は立ち上がらない。


「本気で言ったの?」


「美月、行こう」


「答えなきゃ帰んない」


「本気だよ」と言うと、彼女は勢いよく立ち上がる。


だけど、まだ行かないと言う。


「美月!」と叱ると、うつむいた。


そして――


「き、キスしてくれたら……帰る……」




< 175 / 224 >

この作品をシェア

pagetop