イルカ、恋うた
部屋の前で、岩居さんが、踵を揺すってた。


美月がゆっくりと寄ってきた。


彼女は何も言わなかった。


ただ、少しだけ寂しそうで、俺はその頭を撫でた。


岩居さんと、ドアの前の刑事に敬礼し、中に入る。


不思議と緊張も恐怖もなかった。


彼はベッドの上で腕組みをしてた。


が、威圧は、以前ほど感じられない。


「久しぶりだな。相変わらずの目だ」


検事正のいう意味が分からなかったが、彼は構わず続ける。


「調書は進んだのか?」


「……いいえ」


「なんだ。私は買い被っていたのか?正義感はいかほどか、とも訊いたのに。まぁ、仕方ない」


俺は毅然として言った。


「……真実は一つです。憶測や想像の世界だけでは、その一つの物は絶対に明かせない。当事者が隠し続ける限り、けっして何も変わらない…ですから」


佐伯検事正は、腕組みを解き、膝の上で軽く手を握った。


それから、苦笑を交え話した。


「いいだろう?お前さんの信頼できる、記者でもライターでも、そいつの住所と名前を教えろ」


「え?」


「唖然とする暇があるなら、名刺でもメモでもよこせ」


俺は以前にもらっていた、木田の名刺を渡した。


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