イルカ、恋うた
「娘の夢を知らぬ親ほど、情けないもんはない。

美月は結婚したくないどころか、やりたい仕事があった。

知った後も、応援したわけじゃない。それどころか、向こうで恥をかかせないために、とさっさと花嫁修行させた。

家政婦さんに頼んで、教えてもらえるように……母親がおらぬからな……」


彼は顔をあげる。


何かすっきりとした面持ちだった。


「私はあの子の夢を叶えさせたいと思ってる。あの子をイギリスに行かせる。在学中に留学しなかった分、今させてやろうと思う」


俺は急なことで、絶句してしまった。


「……これから、私のすることを、お前さんなら想像できるだろう。それこそ、私を撃った人間を刺激する。

私はともなく、あの子は無関係だ。まさか、海外に出る者を追いやしまい。帰国した時には、とっくに逮捕も可能だろう。

勉強もさせてやれる。犯人からも守られる。いい考えだと思う。まだ話してないがね……」


佐伯氏が語る中で、混乱は治まってた。


彼は父親の目をわずかに湿らせ、娘を案じている。


ずっと、考えてきたんだろう。


「それはいい考えです。きっと、喜ばれます」


ふん、お前が言うな、と彼は呟いた。


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