イルカ、恋うた
後に、あの少年が薬物中毒で死、曾流会の首領が末期癌で逝ったことを知る。

すると、途端に空しくなった。

薬物に蝕まれる若者を救いたかったはずなのに……。

それが罪を軽くし、逃がした少年が薬物で命を落とし、償ってもらいたかった首領は、一年ほどでこの世にいない。


闇の司法取引は一体、何のためだったのか。

私は処分するはずだった、元の調書と事実の書かれた報告書を残すことにした。

だが、結局公開する勇気はなかった。

妻が死に、幼い娘を抱えて路頭に迷うわけにもいかないし、何より娘がどうなるのか。

父親のせいで、嫌な思いをさせるのは、偲びない。

今、事実をいう気になったのは、真実を求めるいい目に出会ったからだ。

真実は隠すべきではない。彼がいれば、娘も大丈夫だと信じた。

野村巡査には本当に、申し訳ないことをした。彼の死を利用してしまった。

組織壊滅のためとはいえ、恥ずべき行為だった。詫びではすまないが……

ただ、この真実をライターに託そう』



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