イルカ、恋うた
むしろ佐伯検事に会うのは、苦痛どころか楽しみだったという。


「どんな手を使うのか、本当にあの組織を潰してくれるのか……。

棄却はすでに予感してましたが、上辺だけ飾るために、再審請求をしました。

全てはわざと、負けるための露呈しないため。弁護士は負けたら、評価が下がる。

だけど、そんなのどうでも良くなってた」


俺はある疑問を投げかけた。

「……なぜ、その…そんなことをして、今回の調査に参加したんですか?

あなたなら、当初でも真犯人の少年を探り当てたでしょう。

しなかったのは、検事側に味方したからですよね。それがどうして、今回……」


「それも佐伯と同じです。いい目をした若者に出会えたからでしょう。

私は野村巡査にも会えた気がした。少年と最期まで向き合おうとした人を。

彼に関する真実が有耶無耶にしたままだと、彼に合わす顔がありません。

改めて、そう思えた。弁護士失格の僕が、唯一できる償いだと……」


伊藤弁護士は、唇をキュッ締め、なにやら覚悟した顔してる。


俺はある予感がして、「辞めないでくださいね」と言った。

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