イルカ、恋うた
「お父さんは、ちゃんと考えていたんだ。その方が安全だって。

襲撃犯が捕まってないんだ。本庁の捜査班の捜査状況はよく分からないけど、きっと逮捕する。

でも、それまでは安全とは言えないだろう?」


美月は不意にこちらを見て、声をあらげた。


「そんなの、今まで何もなかったわ!どうして急に?絶対、嫌!!」


「どうして?留学は夢だったろ?今からでも、遅くないんだ。行けるんだよ?」


「あの時とは、違うもん……」


「何が?」


「竜介がいるもん…。やだ、私行かない!竜介といる!いいでしょ?だって……」


「美月!」と呼び、俺は彼女の両肩に手を置き、制止した。


「夢の話をしただろ?翻訳家になったら、子ども達に、海外の絵本や童話を読ませるんだろ?

通訳士として、コミュニケーションの間に立つんだろ?

婚約のために諦めて、本当に辛かっただろ?
お父さんも後悔してる。これを機に、勉強させてやりたいと思ったんだ。そんな彼のためにも、頑張ってほしい」


彼女はついに泣き出した。


俺は抱き締めたい衝動を堪え、毅然と言って聞かせる。


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