イルカ、恋うた
空港警察には既に連絡はいっており、岩居もスピードを上げた。


警官も走り回っているのを発見したが、構ってはいられなかった。


竜介は、一階のロビーのベンチの前で、立ち尽くしている彼女を見つけた。

美月は引き返したら、彼に嫌われるんじゃないか、でも会いたい、と思考を巡らせ、固まっていたのだ。


そこに、竜介が彼女の名を呼んだ。


人混みで、声量を失っても、美月には届いた。


「竜介……」


美月は頬を緩めた。


彼も応えるように、笑いたかった。


しかし――


彼女の背後に、不自然に包帯を腕に巻いた男が、視界に入る。


竜介の焦点は、そちらに向かう。


男は破れた包帯の隙間を、こちら側に向けてきた。


竜介は彼女のもとに、疾駆した。


美月の身体を抱き締め、半回転した。


その彼女は、呆然としてた。


なぜ、竜介が慌てたように、恐怖すら感じてるような表情で、自分を抱き締めたのか。


周囲の人達が悲鳴を上げるのか。


そして、背後で、岩居刑事の声が、相棒の名を呼び、誰かを倒す音。


図太い声で、確保!と聞こえる理由。


自分の腕に熱いものを感じること。


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