イルカ、恋うた
泣かないで、傍にいるから。

ずっと、君の姿を見守るから。

誰よりも愛するから。

もし、君のお母さんが許してくれるのなら、君の傍でずっと、歌を歌おう。

君の笑顔が見られるまで。

父さんが教えてくれた歌を……


イルカの奇跡は、きっと君の傍に。



涙に濡れる彼の指が、冷たくなっていく。ずっと握っていたかったのに、彼女の中から消えた。


美月は到着した救急隊員に腕を押さえられ、連れて行かれる。


竜介は愛しい人の悲鳴が、木霊のように消えていくのを感じていた。


その彼女は、腕の痛みに耐えかね、気を失った。


ストレッチャーに乗せられる前、ぼんやりとする視界に、救急隊員が竜介の傍で、首を振る姿が最後に映った。



気がつくと、美月は水族館にいた。


真っ暗で誰もいない。

不安から走りだした。


すると、行く先にあの水槽があることを思い出した。


そうだ、あそこに行けば、彼がいる。


あの子達と一緒に……

だけど、そこも無人だった。


なんで、いるはずなのに……!


水槽の方を見ると、愕然とした。


水一滴も入っていない。当然、生物はいない。


彼女は水槽を叩き続けた。

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