イルカ、恋うた
『美月へ

改めて、手紙を書くのは妙に緊張します。


えっと……また、泣かせてしまったね。本当にごめんなさい』


美月はかぶりを振った。


『でも、俺は君に夢を叶えてほしかったんだ。君のお父さんのように、俺も後押ししたかった。

だけど、思いっきり傷つけてしまった。

足枷になってると考えた時、あれしか思い浮かばなかったんだ。

もちろん、本心なんかじゃない。


わずか十二歳で父と別れる日が来てしまった。あの日、少年は絶望を抱えながら、笑顔を保とうと必死でした。

父さんが泣くのを我慢しているのを気づいていたから。

一人になった父は、小さな水槽の前で泣いていたかもしれません。
僕も一人で、先の水槽へ歩いた。


二頭のイルカは本当に楽しそうで、羨ましくて、そして、とても綺麗で見惚れていた。

でも、少年が気になったのは、妙に大人びた女の子でした』


美月の瞳から溢れた水滴は、頬を滑り、粒となって手紙に落ちた。


『絵を描こう、と言われた時は正直、びっくりしました。でも、何だかドキドキもしたよ。

女の子とあんなに近付いて。一枚の絵を描いたことないから。
半分に切られた時は、もっと驚きましたけど。


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