イルカ、恋うた
「岩居さんが訊いてきたからだよ。俺達の関係を疑問に思ってたんだ。誤解してるなら、とかなきゃ。コンビなんだから」


紙袋は抵抗なく、取れた。


美月の指は、脱力したかのように、緩んでいる。


「誤解?とく?何を?」


と、彼女が問う。


「岩居さんが誤解したら、桜井検事にまで、誤解が移るかもしれないだろ。あの人、口柔らかそうだし、少々大袈裟に取るタチでさ」

紙袋は動かなくなった。


じゃ行こう、と言っても、美月まで動かなくなった。


「帰ろう。遅くなったら、心配する人がいる。今は、家の方が安全かもしれないし」


彼女は最終確認をしてきた。


「私のこと……本当は覚えているんだよね?」


「……うん」


素直に頷くと、水族館でしたように、美月は俺の腕に、手を伸ばしてきた。


今回は邪魔が入らず、華奢な指が、上着越しに触れた。


「美月…」


と、初めて“お嬢さん”以外で呼ぶ。


思わずしてしまった呼び捨てに、お詫びをしようとした。


だけど、できずに固まってしまった。


美月が身体を寄せ、胸元におでこを置いた。


しかも「もう一回、呼んで」

と、涙声で請う。
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