イルカ、恋うた
門の前で停車すると、予感通りに、桜井検事が待っていた。
彼は後部座敷のドアを開け、彼女の手を取る。
「どこに行ってたんだい?買い物?」
「……パパの服と……何か作ってあげたくて、材料を…。お弁当作って……食べられないかもしれないけど、一度持って行きなくて…。いつも、褒めてくれたから…」
美月は声を出した途端、涙を流した。
ずっと、耐えていたかのように。
その後、荷物も持たずに、彼女は家に向かって、走りだした。
俺は、あくまで冷静さを保ち、自分も降りて、荷物を桜井検事に渡した。
「……よほど、検事正のことが気にかかるんでしょうね。水島刑事にもお手数をおかけしますね。ありがとうございます」
桜井検事はまた、何かを諭すような目をしている。
「いえ」とだけ返答し、一礼すると、車に乗り込んだ。