イルカ、恋うた
自分でも、まるで事務的だと思った。


いや、機械的だったかも。


そして今日、久しぶりに名を呼ばれた。


「り、竜介……」


我ながら、よくこんな冷たく、と思えるほど、他人行儀に答えた。


「……何ですか?」


彼女は明らかに、困惑しているようだった。


美月はあの、初日に俺を怒ったベンチに座って、話したいと言った。


気は進まなかったが、どうしてもとせがむので、しぶしぶ言う通りにした。


座ってすぐ、彼女は訊いてきた。


「あ、あのね……絵のこと…なんだけど……」


「ああ、イルカの?」


そう答えると、美月は笑ってた。


でも、俺は考えがあって、素直に答えただけだったから、同じように笑い返してやることはしない。


あくまで、平然としてた。


それに気付いてか、彼女もすぐに真顔になってた。


俺は背を向け、立ち上がった。


早く話を終わらせ、さっさと帰る為。


素直に答えたのは、この妙な間柄を終わらせる為に。


「竜介?」と、美月も立ち上がった。


「……ありますよ。返せばいいのかな?とりあえず、クリアファイルに閉じてました。あれって、意外と場所取ってしまって。いいですよ。いつでも、返し……」


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