イルカ、恋うた
裾にレースのついて、ノースリーブのワンピースで大人っぽかった。


なのに、持っている手提げカバンは布製で、ウサギのワッペンがついてて、いかにも手作りといった感じ。


「ママはね、末期の癌なんだって。

難しいこと分かんないし、教えてもらえないけど、手遅れってことは聞いた。

ママは、自宅療養っていうの選んだんだけど、お出かけは今日が最後なんだって」


彼女は冷静だった。


だけど、急にイルカに視線をそらした。


その一瞬、涙が見えた気がした。


思わず、自分のことを喋ってしまった。


「僕も最後なんだ。
母さんは、僕を産んだ時に死んじゃって。
父さんと二人だったんだけど、限界ってのが来たんだって。
僕は別の家の子になるんだ」


水槽に貼り付けていた手に、彼女の手が重なった。


偶然か、イルカがこちらを向いた。


「私にはパパが残るわ。でも、あなたも一人じゃないわ。お母さんがいるわよ。
ママが言ってたわ。私は死ぬ。でも、その時は、美月の傍に宿る時だって。
竜介の傍にもいるわ。だから、一人じゃないの」


美月は手も視線も外さない。


俺は動揺していた。

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