イルカ、恋うた
「捏造、されたのでは?と不安がよぎりました。その頃、俺は刑事じゃなく、ただの小学生です。


そんな事件も最近まで知りませんでした。だけど、もし事実が歪められたとしたら、上手く言えないけど……ショックです。

それで、何というか、事実が知りたくなって……上に知れたら大変ですけど…」


伊藤さんは微笑した。

それでいて、眼鏡の奥が鋭く光った。


「私は口が堅いですから。これだけを言いましょう。本庁が訊いてきたのは、事件に直接関する内容ではありませんでした。どちらかと言えば、被告人に関することです」


彼も茶をすすった。


本庁は過去の事件を洗い直す、ではなく当事者を捜索している。


犯人の正体だけ、知り得ればいいということか。


「……逆を言えば、事実を知っている?……なら…」


再び、捏造という言葉がよぎる。


「…もし、そうなら、検事が?」


「警察の調書、送致書等を受けて、検事がまた調書、その他書類を作成するんです。しかも、捜査担当検事が先です」


「あ、そうか。法学の基礎か。じゃあ、検事正じゃないかもしれない……か」


思わず、ホッとため息を吐いた。

< 56 / 224 >

この作品をシェア

pagetop