イルカ、恋うた

キス

後日、木田から連絡があり、どんな話をしたのか、自分と同じ内容だったか等、訊いてきた。


彼は、捏造を信じていた。どうにか調査する、と意気込んでいた。


法外なことを、正義の側に立つ人間がするとは、信じたくないけど……。


相手はヤクザ。


表向きがごく普通の輸送業だったので、警察もなかなか立ち入れないでいた。


しかも、慎重で周到な性質。


やっぱり、木田が考えているようなことがあったんじゃないか、と思い始めていた。


「……だけど」


佐伯検事正は頭が切れる、と聞いている。


警察が作りあげたシナリオにまんまと引っかかるとは、とても思えない。


でも、結果として、手を焼いてた組織は壊滅。


……いいじゃん。

正義が勝ったんだ。それでいいよなぁ。


俺は今度こそ、忘れようと決めた。


机の上の資料を片し、立ち上がった時だった。


「おう、竜介。今日、病院へ行ったんだが、佐伯検事正が意識を取り戻したぞ」


岩居さんが嬉しそうに、駆け寄ってきた。


「そうなんだ。よかったぁ」


「まぁ。よかったんだが……」


彼は急に、顔を曇らせた。

「……何かあったんですか?」


< 59 / 224 >

この作品をシェア

pagetop