イルカ、恋うた
美月はポニーテールを縛り直し、気合い十分だった。


それを見てると、自分も「よし」と気合いを入れ、紙の前で構えた。


さっさと、素描する彼女の横で、俺も鉛筆を走らせた。


下書きが済むと、上から黒ペンでなぞり、塗り絵方式で、色鉛筆で色を付けた。


二人の間に距離はなく、たまに肩や手の甲が接触した。


大人びた彼女の方が、意外と照れたりした。


イルカは動きまわる。


これが人間の命令を聞くんだよなぁ、とオヤジみたいに感心してた。


二頭は、時折目を合わせる。


ただのコミュニケーションだと思ったけど、美月は、

「ほら、恋人よ」

と言い張る。


「違うって」


そう言いながら、彼女が描いたのはメスで、竜介が描いたのはオスだった。

美月が頭にリボンを描いたので、とっさにネクタイを付けたのだ。


後片付けしながら、彼女は訊いた。


「なんで、ネクタイ?」

「だって、男のシンボルじゃん。君のパパだってつけるだろ?」


確かにつけていた。


間もなく、美月の名を呼びながら、男性が駆けてきた。
< 7 / 224 >

この作品をシェア

pagetop