イルカ、恋うた
「パパは何がなんでも、私とお兄ちゃんを結婚させるって。別れさせないって。

それに、竜介のこと、一言も話してないの……なのに、なんで…」

「桜井検事は?」


「私が知る限り、話してないよ」


――やだな。


この状況。岩居さんじゃないけど、嫌な感じがする。


「竜介、怖いよ…」


美月は俺にしがみつく。


「……俺と結婚する気あるのか?って訊かれて、嘘吐けないから、ごめんなさい、できませんって言ったの……そしたら、そしたらね……」


「いいよ。言わなくても」


だけど、彼女は続ける。


「お、お前は婚約者だから…って押し倒されて……あんなに優しいお兄ちゃんだったのに……私が変えちゃったんだ……」


美月は泣き出した。


俺は静かに語りかけた。


「美月、桜井検事は君を愛しているんだ。確かに、間違ったことしちゃったけど、今頃すごく後悔してる。君は、彼の気持ちに応えてなきゃ……」


「……応える?」


「うん。桜井検事なら、きっと君を幸せにしてくれるよ。彼が本当は優しい人なんだから。君が傍にいれば、桜井検事だって、ずっと平穏でいられる」


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