イルカ、恋うた
――もう、やめてくれ。そんな顔すんな…


そんなに泣くな。


たかだか、小さい頃に知り合って。


ただ、絵を描いただけだろ?


君は美化し過ぎたんだ。


俺は桜井検事ほど、いい男でなければ、キャリアもない。


何もないんだ―…


「……お嬢さん。別に会わなければいけない関係じゃないでしょう。少し、落ち着いてください。いろいろありすぎて、混乱されているんですよ」


“敬語”にした途端、彼女は耳を塞ぐようにして、首を振る。


「やだ。聞きたくない」


どうしたらいい?


分からない。


分からない―…


こっちこそ、混乱しはじめた頃、美月がふらふらと、後方に倒れようとした。


「お嬢……美月!?」


肩を支えるように、自分の胸元に寄せる。


「ち……ちょっと……めまいがしちゃって……最近…ねむ…れなくて……」


「少し眠った方がいい」


「いや……眠ったら……りゅ、すけ……いなく…なっちゃう…」


「でも、眠らなきゃ。君が倒れたら、誰がお父さんを支えるんだ」


俺は彼女を抱えると、ベッドに置き、かけようと、足元の布団に手を伸ばした。


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