イルカ、恋うた
しかし、届かない。


美月が首に腕をまわし、しがみついたまま、離れないから…


「あの、美月……」


「せっかく……初めての…お姫様だっこ……」


どうやら、すぐに下ろしたのが気に入らないらしい。


「しょうがないでしょ。休まなきゃ…」


「寝たら、一人ぼっち」


「夕方には家政婦さんが来るだろ」


「やだ。竜介、ここにいて……」


まるで、子どもだった。


離そうとした時、上着が落ちる。


裂かれてたシャツを、押さえてた美月の手も、今はないので、開いた状態だった。


彼女もそれに気づき、再び押さえながら、真っ赤になる。


「出てるから、着替えなよ」


腕から解放されて、俺は立ち上がった。


「帰らないで!」


「……ドアの外にいますから」


外に出ると、ドアを閉め、その前に立ってた。


まずいな。

岩居さん戻って来ないな…


携帯を出そうとしたが……


あ、上着の内ポケットだ。


どたばたと音がして、ドアが開く。


美月が顔を出し、俺がいるのを確認すると、ホッとしたように、穏やかに笑った。


その瞬間、トクンと確かに、胸が鳴った。


自分の―…


< 77 / 224 >

この作品をシェア

pagetop