イルカ、恋うた
それを本人の口から聞きたくなかった。


変なの……


そう、始めからただの友達だった。


小さい頃から、ずっとただの友達だったんだ。


俺が一番、そう思って、婚約も結婚も祝いたかったんだから。


今更、辛くなることない。


「……うん、いいよ」


母が自分を産んで死んだこと。


父が仕事で失敗し、借金で首がまわらなくなって、遠い親戚が、養子を提案してきたこと。


本当は、借金があってもいいから、父さんと一緒にいたかったこと。


早く家を出たいという、始めは単純な理由で、警察学校を選んだこと。


あの水族館は、父子の最後の外出だったことを話した。


「母さんは、俺が殺したようなもんなのに。父さんの借金だって、俺との生活を守る為だったのに……俺だけ、逃げたんだ……」


涙腺が緩んできた。


立場上にも、女性の前で泣きたくないのに……


顔を伏せていると、彼女は覗き込むように、接近する。


「竜介は悪くないじゃない。お父さんだって、そんなこと考えてない。お母さんだって、竜介が産まれてきてくれた、って喜んでる」


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