イルカ、恋うた
「でも、二人ともいない。俺だけ、生きてる」


美月の腕が、首にまわされ、抱き寄せされる。


「だからいいんだよ。二人は喜んでる。刑事さんになったことも……」


それから、「ごめんなさい」と言ってきた。


「あの水族館。辛かったよね。なのに、私……。何もできなくて」


――バカ。

居てくれただけでよかったんだよ…


あの、大人びた女の子と、二頭のイルカが……


「……父さんがあの日、イルカの水槽の前で言ったんだ。

恋人同士だと言い張る女の子と出会った、って話したら、当たり前だって。
イルカ達は歌っているんだからって」


美月は俺を抱き締めまま、聞き返す。


「歌?」


「うん。イルカの鳴き声やコミュニケーションは、ヒーリングにも使われるけど、本来は好きな女の子の為に、男の子が歌っているんだって。変なとこ、ロマンティストなんだから……」


不精ヒゲの中年男性が、そんな似合わないこと語る姿を、思い出して、苦笑してしまった。


彼女はただ一言、「素敵」と呟いた。

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