イルカ、恋うた
「素敵?」


「うん、素敵。聴いてみたい。イルカの歌声」


そういう反応、美月らしいな。


「ねぇ、お父さんは?」


俺は黙った。


彼女はゆっくりと、離れて、顔を見ようとしてきた。


だから、俺は顔を反対側に背けた。


だって、完全に水分が目から落ちてしまっていたから。


何も言わなくても、彼女はすべて感づいたようで、再び抱き寄せられた。


「あなたも一人じゃない。ママが言ってた。私は死ぬ。でも、その時は美月の傍に宿る時だ」


彼女は、かつての言葉を自ら再現した。


「うん。その言葉があったから、信じてた。父さんはいる。きっと、母さんの一緒に傍にいてくれてる、って考えたら、死に目に会えなかったことも、見れたのが、十二歳で別れたあの姿が、最後だったとしても、俺は頑張れた」


だけど……、と言って、俺は声が出なくなった。


美月は柔和な声色で言った。


泣いてもいいんだよ、と頭を自分の方に寄せた。


「頑張ったね」


そして、彼女は額にキスしてきた。


羞恥よりも、ただただ苦しくなって、より泣けてきて、彼女の腕の中で、涙を流した。



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