イルカ、恋うた
本当に、彼のことを忘れていたもんで、俺は急いで、部屋を出て、客間に戻った。


「長かったなぁ」


岩居さんは、ニヤニヤした、エロオヤジな顔をしてる。


「もう、署に戻りましょうよ!」


何もなかったけど、女の子の腕の中で、泣いたことが恥ずかしくて、ちょっと焦ってた。


「おんやぁ、やっぱり何か……あ、さぁ、戻ろう」


後から来た、美月を見て、彼は動揺しながら、廊下を歩いていった。


「ごめんね。悪い人じゃないから」


手を拝むようにして合わせて、軽く会釈した。


――え?


顔を上げた時、目をうるませる彼女がいた。


視線が合うと、すぐにそらした。


「え、あの……」


「お嬢様、旦那様のお着替ですがぁ」


と、奥から家政婦さんが呼ぶ。


「じゃあ、行くな」


俺は岩居さんを追い、玄関に向かった。


彼は靴を履き、三和土に立って待ってた。


俺も靴を履くと、二人で門の外に出た。


警官に敬礼し、車に乗り込んですぐ、岩居さんが言った。


それは、耳を疑うものだった。


「聞いたか?お嬢さんと、桜井検事の婚約破棄」

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