イルカ、恋うた
なぜか、伊藤弁護士に電話していた。


彼は「何となく、かかってくると思ってました」と答えた。


あの事件の被害者、野村巡査と、容疑者 御崎に何か接点があるかどうか。


婦人に聞き覚えがないか、尋ねてみたかった。


一度は忘れようとした事件が、なぜこんなに気になるかは、自分でも分からない。


が、真実を求める何かが、心の中にあって、行動してしまうんだ。


最寄りの駅で、待ち合わせをし、伊藤弁護士と二人で、現場の公園へ向かった。


途中、彼は言った。


「当時、私も尋ねました。接点があるような何かを聞きませんでしたか、と。でも、彼女は、旦那は仕事を持ち込まない人だった、と。水島君は何を訊くつもりですか?」


「まずはご冥福を祈りたいです。それからですね……」


俺は殉職を意識したことがない。


空き巣の常習犯は、ピッキングの道具を所持する程度だったし、自転車盗難の犯人も、ニッパーやペンチくらいだ。


まぁ、確かに攻撃によっては、危険だけど、一度も絶命など考えたことはない。


交番に勤務していた拳銃を奪われ、絶命。


もしかしたら、今も悔恨に成仏しきれてないんじゃないかと、会えない先輩に、想いをはせた。


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