イルカ、恋うた
駅から、数分歩いたところにある住宅街。


入ってすぐ、公園はあった。


子ども達のはしゃぐ声が、外まで響く。


門まで行くと、ベンチに五十歳くらいの女性が、子ども達を眺め、目を細めている姿が視界に入った。


彼女は顔見知りの弁護士に気づき、会釈した。


「お久しぶりです。野村さん」


と、伊藤弁護士も頭を下げる。


「ええ。今頃、また……」と、彼女は顔を強張らせる。


奥さんは当然、御崎を犯人だと思っている。


弁護を務めた伊藤弁護士を、良くは思ってないらしい。


「あの、そちらは?」と問われ、警察手帳を見せた。


「刑事さん……そう。あの人が死んだ時、拳銃を奪われるなんて、とよく皮肉られたわ」


彼女は遠くをみた。


俺は思わず、「すみません」と詫びた。


「あら、あなたが謝ることはないわ。見るからに、二十代でしょう。あの頃はお子さんでしょうに」


奥さんは頬を緩めた。


それから、遺体があったとされる、傍らの木に向かって、手を合わせるところを眺めてくる。


黙祷の後に、彼女に訊いた。


「突然、すみません。佐伯検事正の事件を、ご存知ですか?」


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