イルカ、恋うた
彼女はますます、顔を覆い、声をつまらせた。


そして、ありがとうと呟き、彼女は頭を下げ、公園を出ていった。


その背が見えなくなってから、伊藤弁護士が口を開いた。


「主犯格の少年……そんな話、初耳だった」


「そうなんですか……。それこそ、彼の悔いでしょうね」


「もし、水島君なら、気にかけていた少年を、殺した主犯格と対面したらどうしますか?しかも、かなりの凶悪っぽいですが……」


「……そりゃ、争いになってしまうかも…。たとえ、こっちが控えめにしてても、向こうから来る可能性は……」


彼に向かい、「まさか」と呟いた。


「少年法改正前。昔は、今ほど重視されていなかった。名前や顔が報道されないのは、今も同じですが、公にされないことだって……」


言い方悪いが、捏造も今ほど、手がかからなかったはずだ。


これはさすがに、声に出さなかったのに、伊藤弁護士は、少し調べたい、と言って、彼も自分を残して、この場を去った。


ベンチに腰を下ろして、想像していた。


巡査が、誰かに刺されたところで、携帯が鳴り、我に返った。


岩居さんだった。


『今、どこにいる?』



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